PR会社から独立し、今は株式会社ワッツユアリッチのCEOとして活動する白幡健太郎さん。企業のブランデイングや、PR観点に基づく商品開発の支援などをおこなっています。
白幡さんは、WEBマーケターとしてキャリアをスタートしており、「数値(データ)に基づく広報」や、「売上に繋がる広報」を得意とされています。
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広報業務の内容について
今回は、フリーランスの広報として活躍する白幡さんに、広報としてのお仕事の内容をお伺いしました。
広報業務を大きく分けると以下の①〜⑤に分類されます。
①:PR戦略の構築
②:PRネタの企画
③:プレスリリースの配信
④:PRの効果測定と施策の修正
⑤:メディア記者さんとのリレーション
それでは、①〜⑤の順にコツをお伺いしていきます。
①:PR戦略について
PRを戦略の立て方のコツ教えて下さい
大切なのは、 PR活動による成功の定義を明確にすることです。「PRによるゴールってなんだっけ?それってそもそもPRでいいんだっけ?」という議論から始めますね。
例えば「売上を上げる」というゴールがあった時、PRによって得たい効果、PRの対象となる顧客ペルソナ、その顧客とどのようなコミュニケーションを取りたいのか?を定義した上で、ロードマップを作成します。
よく”TVに出たい”とか”新聞に載りたい”とかメディア掲載されることがゴールになっている経営者の方も多いのですが、それはちょっと違うのかなと思っています。自分たちが取り上げてもらいたい情報で取り上げてもらわないと意味がないので。
成果が出たPRの事例を教えて下さい
とある飲食店の事例で、「競合がひしめくエリアの店舗のランチの売上を増やしたい」といった相談がありました。
以下の流れで広報活動をおこなったところ、ランチの売上が前月対比1.5倍以上になったという事例がありました。
- リサーチ:対象エリア一の検索キーワードを抽出(例:「表参道 ランチ」でクエリ抽出)、検索量の多いメニュー品目をカテゴリ分け
- 商品開発:検索量が多くて、かつお店のコンセプトに沿っているメニューを開発する。(ニッチな領域でも、No,1、オンリー1を意識する)
- 情報発信・拡散:その新メニューをプレスリリース、SNS拡散する。その結果、キュレーションメディア、個人ブログ、SNSで多数掲載される
PR予算ってどれくらいですか?
月数十万~数千万円と規模によって幅があります。ちなみにPR会社のお金のもらい方は2つあるんです。
- 単発キャンペーン方式
- 月額リテーナー方式
1つ目はあるキャンペーンに対して数百万〜数千万単位で予算をもらい、その予算の範囲内でPRをおこなう形式。2つ目はリテーナー方式っていう毎月お金をもらっていく仕組み。
ただ、1つのキャンペーンに対して数千万かけてホームランを狙っていくようなやり方はあまりおすすめしません。PRって正解がないのでコケることって結構ありますから。私が推奨しているのは後者のリテーナータイプです。
小~中の施策をいくつか用意しておいて、小さく施策を回しながら、KPIやロードマップの進捗管理をして、このまま続けるのか方向転換をするのか判断して素早く動くことがPRの成功に繋がります。
大きいPR会社ですとそういうPRのやり方があまりできないので、これから形が変わってくるんじゃないかって思いますね。
②:話題になる「ネタ作り」について
広報の重要な仕事は情報発信です。ところが「何を配信したら良いのか分からない」「ネタがない」という広報マンも多いと思います。
PR観点で商品開発や企業ブランディンぐに携わる白幡さんに「ネタ作りの極意」についてお伺いしました。
話題になるネタ作りのコツはありますか?
ファクト(事実)とデータ(数値)を盛り込む
経営者の方って、サービスに対する思い入れが強かったり、強烈な原体験をストーリーとして語るのが上手い方が多いですよね。
たしかに、起業家の「エモい」ストーリーは共感を集めやすいのですが、
自己発信のストーリーだけでは、世の中のニュースにはなりません。
「それってあなたにとって課題だけど、世の中にとって課題なの?」という冷静な視点も大切です。
どこにいる誰がどの様に困っているのか?といった「ファクト(事実)」と、その困っている人が世の中に何人いるのか?といった「データ(数値)」がなければ社会課題として世論に認めてもらうことはできません。
実際ファクトやデータを集めてみると、残念なことに、起業家が課題だと思っていたことが、世の中にとっては課題ではなかったということもあります。
意外性、新規性、独自性を作る
PR業界では昔から、「新規性」「意外性」「独自性」がバズる要素だと言われています。
新規性や意外性で言うと、例えば「日本発!遊具のない遊園地」というのを聞くとなんだそれ?となりますよね。遊具があって当たり前という常識をあえてひっくり返すことで意外性を生み出し、今まで聞いたことないという新しさを生み出したりするんです。
また、独自性というところでは、僕はお仕事する前に「この商品は一言でいうとなんですか」「誰のどんなニーズに答えるためにあるんですか」という話をクライアントさんと徹底的に話します。
独自性がないものだったりすると、最悪お断りするケースもありますね。広告として売ったほうが費用対効果がいいんじゃないですかといった感じで。
新しい市場を開拓し、ニッチでもいいからNo1を作る
小さい会社のブランディングの極意はニッチでもいいのでNo1になることです。
例えば「キャットフード市場」があった時に、今さら「無添加」とか「国産」とか言っても既存のプレイヤーに勝てないし認知してもらえないですよね。
既存の市場で勝てなければ、例えば「人口肉のキャットフード」というニッチな市場を作ってそこでNo1になるということでも構いません。
新しい市場を開拓し、そこでNo1を取るというのも広報マンの仕事です。
そのためには、PR観点でNo1を取れる市場を狙って商品開発をおこなうこともあります。
③:プレスリリースについて
プレスリリース配信のコツを教えて下さい。
ワイヤーサービスを使って情報を発信することで、web上に情報を蓄積する
最近では、 ワイヤーサービスと呼ばれる、プレスリリースをWEB上に公開し、提携メディアに一斉送信できるプレスリリース配信ツールを使用しています。 代表的なツールにPRtimes、@Pressなどがあります。
基本的には、メディアに取り上げてもらう為にプレスリリースを打っていますが、メディア掲載に至るまでのチャネルが複雑化しており、どこでネタがハネるかわからないというのが正直なところではあります。
さらに、ワイヤーサービス上だけでも1日に800件から1000件ぐらいのプレスリリースが行きかっているので、メディアに取り上げてもらうのは簡単ではありません。
ですが、広報が一番やってはいけないことは「情報発信を止めること」です。ワイヤーサービスで配信することで、WEB上に発信した情報を蓄積しておくことができるため、情報発信は継続して行うようにしています。
B向け商材であれば、ワイヤーサービス上でのコンバージョン(成約)も狙う
また、商材によっては、ワイヤーサービス上だけでコンバージョンすることもあります。
PRTimes、@Pressといったワイヤーサービスは、メディアだけでなく決済者である経営者も回遊していますし、SNSアカウントも強く、顧客にリーチする事が可能です。
不確実性の高いメディア経由でリーチを稼ぐという考えに固執するのではなく、これらのワイヤーサービス上で直接ユーザにリーチし、自社ページ訪問数を確実に稼ぐという視点もあるでしょう。
C向け商材は、SNSや個人ブログなどエンドユーザーに拡散されるように設計する。
とは言え、C向け商材ですと、流石にワイヤーサービス上でコンバージョンを狙うことは難しくなります。そういった場合はSNSや個人ブログなどで拡散されることを狙うようにしています。
ただ、真面目なことを真面目に語っても、一般消費者にはスルーされてしまいます。そこで、一般の方が、自分事として関心が高い「恋愛」や「年収」といった、個人の欲求に根ざすテーマを絡めることがあります。
また、あえてツッコミをいれたくなるような、SNS上で議論が生まれやすい内容をつくることでバズりやすくなります。
④:効果測定について
メディア掲載の広告換算とかはしますか?
メディアの掲載数とかはまだ重視はしていますが、View数とかの広告換算はあまりつけていないですね。メディアの広告換算で効果測定するのはあまり指標としては意味を成さないかと思います。
どんな数値を計測しますか?
“バズ”の測定は、難しいのですが、投稿の閲覧数、シェア数、ソーシャルノイズとかをチェックします。Twitterでどれくらい投稿されていているかなどですね。
また、最近僕が注視しているのが、NewsPicksでのシェアです。特にBtoBだとアーリーアダプターとかも眠っているので。そこで騒がれやすいコンテンツ作り、KPI測定してネタを作っています。
ただし、単にバズっただけでは売上には繋がらないので、HPへの流入数も重視しています。「バズを生んだ後に、個人情報をどのようにように取っていくのか?」が非常に大事です。
例えばプレスリリースには、4割だけ書いて、あとはHPに来てね、といった導線づくりをしないともったいない。
TwitterやNewsPicksのユーザーがどのようなアクションを取っているかを定期的に見つつ、自社HPに来た流入経路などをチェックして、バズがどのように売上に貢献しているかを測定します。
バズったときは本当に分かりやすく流入数が80倍に登ったりするんです。売上にも如実に繋がりますよね。
⑤:メディアリレーションについて
メディアが求めている情報を把握して、提供することが大切
相手が何をもとめているかを判別することが大事です。相手が求めている情報を把握した上で、必要な情報を提供するようにしています。
相手が求めているのであれば、競合の状況も含めて自社製品だけでなく業界情報などもお伝えした方が良いでしょう。
一企業の広報として自社製品を押し売りするのではなく、情報提供者として記者に信頼してもらうことが大切だと思います。
メディアプロモートよりもネタを磨くことに注力するべき
極論ネタが面白ければ何もしなくてもバズりやすいですし、メディア記者さんも食いついてくれます。
瞬間的につまらないネタをゴリ押しで掲載してもらったとしても、次に繋がらないんですよね。逆に、つまらないネタばかりを一方的に提供してくる広報って印象が悪くなってしまうと思いますよ。
ですので、ゴリ押しの営業のような広報活動に注力するよりも、本当に面白いと思えるネタを作っていくことに注力するべきだと思います。
【番外編】広報のキャリアについて
白幡さんは、PR会社から独立されてますが、広報の方ってフリーランスでも活躍出来るんでしょうか?
広報はスキルセットが似通っていて単価が下がっていく
現在私はPR会社から独立して、会社の代表取締役を務めていますが、結論としては以前より厳しくなっていると思います。
PRマンのスキルセットが似通っていて、もちろん仕事はありますが単価は下がっていく傾向にあります。
広報職に求められるスキルは何ですか?
やっぱり「広報=メディアとのコミュニケーション」という側面は大きいので、コミュニケーション能力は求められることが多いと思います。
最近広報が人事・総務・広報がひとくくりにされつつあり、事務的な作業のところが増えてきていますので、そういうところで働いている人は見直したほうがいいのかなと思います。
単価を上げるには、広報×●●という尖ったスキルが求められる
まわりで活躍している人は「広報スキル×●●」といった何か尖ったものをもっていますね。
「広報×エディター」として素敵な記事を書くことができたり、「広報×人脈」「広報×特定業界」などの特色や強みがあるといいですよね。
私は、「広報×マーケティング」で勝負しています。
WEB解析をずっとやっていたのですが、これはマーケティングの知識です。
商品開発領域に入ることができるのも上流設計のマーケティング経験があったからです。
「広報=美人・イケメン」みたいなイメージがありますがどうでしょうか?
たしかに広報に美人・イケメンな人をおくことでコミュニケーションやリレーションの構築に意味はあると思います。
ただ、あくまで広報を点でしか見れていないニーズなのかと思います。美人・イケメンが必要であればスポットで雇うといった方法でも十分だと思いますね。
また、属人的なPR手法は、全社的にノウハウもたまりませんし、いざその人が辞めてしまったときに、これまでのリレーションが消えてしまう可能性もあります。
バーグハンバーグバーグやチームラボのように、会社やサービス自体に面白さがあり、ファンがつくようなPRをしていく方がリスクが少ないのではないかと思います。
広報の成果を数字で語れる能力(マーケティング知識)も重要
最近求人で見たのですが、マーケティング職の人と広報の職の人が同じ会社であっても、年間で約100万から200万収入が変わってきてしまっていたんですね。
これって成果を数値に落とし込むことができていないからこの差がつくのかなって思いますね。
携わる身としては悔しくて、価値あることをあまりやっていないという評価なのですごく見返したいです。
ここでやっぱり必要になってくるのが数値化ってところで、数値化できない人ってうまいプレゼンテーションもできないですよね。仮説をたてて数値化できる能力って本当に大切です。
広報ってやっぱり昔ながらの業界ですか?
そう思います。広報って本当に広報2.0ぐらいでまだ進んでないんですよ。具体的にどんな風に進化されているかを明言されてないんですよ。いろいろなところで進化しているかもしれせんが、まだまだ成長が必要だと思います。